伊藤記念財団賞Award

概要と最新の受賞者

食肉に関する学術上の研究に優れた業績が認められ、将来の活躍が期待される研究者に伊藤記念財団賞を授与します。
本年度は8月1日~10月31日まで、第5回伊藤記念財団賞の受賞者について募集を行い、選考委員会において選考を行い、理事会において受賞者を決定します。
受賞者には賞状及び研究奨励金200万円を授与します。
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第4回伊藤記念財団賞受賞者

受賞者氏名及び所属機関等 対象となった業績の課題名
林 利哉
名城大学農学部応用生物化学科 教授
筋肉・食肉タンパク質の機能・加工特性に関する研究
‐ゲル化特性、変性・分解挙動、生理活性‐
今内 覚
北海道大学大学院獣医学研究院・病原制御学分野 准教授
肉の生産現場における牛白血病の新たな制御法の開発
水野谷 航
麻布大学獣医学部動物応用科学科
食品科学研究室 准教授
筋線維タイプの解析技術開発と食肉生産への応用に関する研究

6月12日 第4回伊藤記念財団賞の授賞式が行われました>

第4回伊藤記念財団賞受賞者 業績概要

氏 名 林 利哉
所属機関・職名 名城大学農学部応用生物化学科 教授
業績の課題名 筋肉・食肉タンパク質の機能・加工特性に関する研究
-ゲル化特性、変性・分解挙動、生理活性-

業績の概要(受賞理由)

良質なタンパク質を多く含む食肉は、嗜好面と栄養面の両方を兼ね備えるポテンシャルに満ちた食材であるが、現在のところ十分な知見が取得・活用されているとはいい難く、食肉・筋肉の未知・既知機能の発掘とさらなる改善が待たれるところである。受賞者の研究内容は大きく以下の三つに分類される。一つ目の領域は, 未利用・低利用資源の食肉製品への有効利用を念頭においた大豆タンパク質と筋肉タンパク質の相互作用に関する研究である。連続的に加熱挙動を追跡できる動的粘弾性測定とタンパク質化学的手法を併用して、異種タンパク質同士が共存することによって生ずる相乗的な分子間反応の帰結として発現される粘弾性特性と理化学的特性の変化から、これらのタンパク質間で生ずる相互作用を論じ、加熱に伴う異種タンパク質間相互作用の発現機構の一部を明らかにした。
二つ目は、食肉の”素”である筋肉の成長・肥大と運動との関連に関する研究である。筋肉の肥大は栄養・運動・成長因子の相乗作用で助長されると考えられており、同氏は、運動とタンパク質栄養が動物の成長に如何に作用するかを動物実験によって検討し、運動と食肉タンパク質摂取の組合せにより、ラットの成長と筋肉の成長因子として知られるインスリン様成長因子-I (IGF-I)の血液中濃度の上昇が促されることを明らかにした。さらに、運動神経支配と、筋肉の成長との関係を、外科的に運動神経を切除したウサギの筋肉の量的および質的変化を調べることによって検討したところ、神経切除による筋萎縮に伴って、分子量12kDaの糖タンパク質因子の量が減少することを見出すとともに、そのアミノ酸配列が新規なものであったことから、本因子をs-myotrophinと命名した。この運動神経依存型の筋肉細胞成長因子は、既知の有力な筋肉細胞成長因子である IGF-I に匹敵する培養骨格筋細胞の肥大化活性並びに骨格筋特異的タンパク質の発現賦活活性を有することも明らかにした。
三つ目は、現在推進している食肉・食肉製品の機能改善に関する研究である。特に、高温殺菌や発酵といった食品加工技術によって、より安全で、おいしく、かつ機能性が強化された高付加価値な製品の開発を志向した研究である。その成果として、発酵やレトルト処理により、食肉タンパク質は、ミオシン等の主要タンパク質の一部分解を伴う極めて特徴的なゲル形成挙動を示すことや、血圧上昇抑制効果や筋骨格系細胞の成長といった種々の機能性を発現する可能性を見出している。
これらの成果は、食肉・食肉製品の付加価値向上に寄与し得る基礎的知見であり、学術面のみならず、産業面においてもその発展に資することが期待される。


氏 名 今内 覚
所属機関・職名 北海道大学大学院獣医学研究院・病原制御学分野・准教授
業績の課題名 食肉の生産現場における牛白血病の新たな制御法の開発

業績の概要(受賞理由)

牛白血病は、白血球増加や全身性の悪性リンパ腫を症状とする疾病で、発症すると死に至る。牛白血病の発生原因は、ウイスル性と非ウイルス性に大きく二つに分かれ、このうち牛白血病ウイスルを原因とする牛白血病が、本病のほとんどを占める。牛白血病は平成10年に届出伝染病に指定された当初、全国での発生数は100頭にも満たなかったが、平成29年の発生数は3.383頭(うち607頭は北海道での発生)にも至り、当時の34倍以上も急増している状況である。現在、牛白血病に対する有効なワクチンや治療法は未だ無く、的確な診断法および制御法の開発が求められている。ウイルスが原因となる牛白血病は地方病型と呼ばれ、主に3歳以上のウシに発生するとされていた。しかし、若齢牛での発症が示唆され始めたことから食肉衛生検査所と共同研究を実施し、これまで否定されていた若齢牛での地方病型白血病が発生していることを報告した。一方、長年の研究にもかかわらずワクチンの実用化に至っていないウシの難治性疾患、特に免疫抑制状態に陥っていると想定される慢性感染症の宿主免疫機構を明らかにした。すなわち、牛白血病では、ワクチン非働化の機序が免疫抑制因子によるリンパ球の疲弊化であると解明した。この知見により、免疫抑制因子を阻害することでウイルス量を低下させる治療薬の解発にも成功し、今後の牛白血病をはじめとするウシの難治性疾病の新制御法としてなりうることは報告した。本開発技術の応用がなされれば、休眠状態だった抗原特異的リンパ球の機能回復がなされ、ウイルス感染細胞の排除が可能となり、牛白血病発症の抑制のみならず、病態進行に伴う乳量の低下や脂肪沈着量などに及ぼす経済的損失の抑制効果にも寄与する。更に、免疫低下に付随する他の疾患への易感受性状態からの脱却も図られる。また、本開発技術は、いまだワクチンが成功に至っていないウシの慢性感染症(ヨーネ病、マイコプラズマ症・乳房炎等の経済損失が大きい疾患)にも同様の効果をもたらすと考えられ、北海道をはじめとした日本の生物系特定産業や社会、経済への間接的貢献も期待が大きいと考えられる。


氏 名 水野谷 航
所属機関・職名 九州大学大学院農学研究院 助教 ※現所属 麻布大学 獣医学部
業績の課題名 筋繊維タイプの解析技術開発と食肉生産への応用に関する研究

業績の概要(受賞理由)

骨格筋は動物体の様々な運動に関わる組織である。骨格筋を構成する筋線維には遅筋タイプと速筋タイプが存在し、このタイプ組成により動物の運動能力と代謝能力が左右される事が良く知られている。一方と畜後に肉用家畜の骨格筋は死後変化を経て食肉に変わるが、筋線維タイプ組成は保水性や肉色等に代表される食肉の質にも強い影響を与える事が分かっている。水野谷氏は筋線維タイプ組成を効率的に解析できる手法の開発に努め、筋線維タイプの指標分子であるミオシン重鎖アイソフォームを明瞭に分離する電気泳動プロトコルを開発し(Mizunoya et al. Anal Biochem,2008)
次いでミオシン重鎖アイソフォームに特異的に結合する4種の異なるモノクローナル抗体を新規作成し、抗体に直接蛍光標識する事で、単一試料で筋線維タイプを可視化できる免疫染色プロトコルの開発にも成功した(Sawano et al PLOS ONE,2016)。
さらに、上記解析技術を駆使し、食品栄養学的な処理によって筋線維タイプ組成を制御できるか検討してきた。まず、脂肪代謝を促進する寒冷環境下での飼育がラット骨格筋の遅筋タイプを増加する事を明らかにした(Mizunoya et al. Anim Sci J,2008)。さらに、魚油あるいはリンゴポリフェノールを搾取したラットの骨格筋では、それぞれの対照区と比較して、有意に遅筋タイプ側へ筋線維タイプ組成が変化することを明らかにした(Mizunoya et al. PLOS ONE,2013,2015)。これらの発見は、筋線維タイプ組成は運動によってのみ変化すると考えられていた従来の定説を覆すものである。さらに近年では、遅筋タイプが多い筋組織で脂肪合成系の遺伝子発現が高い事、蓄積脂肪が多い筋線維は実際は遅筋タイプではなく中間タイプの筋線維であることを見出している(Komiya et al, J Muscle Res Cell M,2017)。