伊藤記念財団賞Award

概要と最新の受賞者

食肉に関する学術上の研究に優れた業績が認められ、将来の活躍が期待される研究者に伊藤記念財団賞を授与します。
本年度は8月1日~10月30日まで、第4回伊藤記念財団賞の受賞者について募集を行い、選考委員会において選考を行い、理事会において受賞者を決定します。
受賞者には賞状及び研究奨励金200万円を授与します。

第3回伊藤記念財団賞受賞者

受賞者氏名及び所属機関等 対象となった業績の課題名
須田 義人
宮城大学 食産業ファームビジネス学科 教授
黒毛和種ゲノムDNAメチル化多型と肉質形質との関係に関する研究
河原 聡
宮崎大学 農学部 応用生物科学科
教授
食肉脂質の食品栄養学的再評価に関する研究

6月13日 第3回伊藤記念財団賞の授賞式が行われました>

第3回伊藤記念財団賞受賞者 業績概要

氏 名 須田 義人
所属機関・職名 宮城大学 食産業学部 ファームビジネス学科 教授
業績の課題名 黒毛和種ゲノムDNAメチル化多型と肉質形質との関係に関する研究

業績の概要(受賞理由)

黒毛和種の脂肪交雑などの遺伝率は約60%と高く、効果の大きい遺伝子の存在が期待されるが、関連遺伝子数が膨大で絞り込みは困難を極めている。さらに、その他の経済形質に関する塩基配列多型情報の寄与も数%であり、より効果的な育種改良のためには環境効果を考慮した方法を検討する必要がある。遺伝子発現を制御する領域のDNAメチル化は、環境に応じて変化し遺伝子発現量を制御する。候補者はこれまで親子の2種雄牛の産子由来ゲノムDNAを供し、ヒトのメチル化促進領域である34領域を選択してメチル化度(メチル化割合)を調査した。そして枝肉成績との相関解析を行った結果、親子の種雄牛産子のメチル化割合は類似傾向にあること、特にCHFR(checkpoint with forkhead and ring finger domain)やASS1(Argininosuccinatesynthase)遺伝子の上流CpG領域におけるメチル化割合とBMSや格付けとは有意な相関を認め、A3ランク以下はA5に比べ有意にメチル化割合の高いことを明らかにした。DNAメチル化は飼養状況に起因する可能性があり、生産段階での仕上がりをモニターするバイオメーカーとして利用できる可能性を示唆する成果を上げている。須田氏は、前述に加えて以下の様な研究成果をあげている。

  1. 1 牛の生理遺伝的指標の探索
    牛の代謝成分や生理活性物質の血中動態に関する遺伝性を推定し、経済形質との相関性が高い事を明らかし、血液成分の遺伝的改良マーカーとしての有用性を提示した。
  2. 2 モデル動物を用いた蓄積体脂肪における脂肪酸組成の遺伝的評価
    モデル動物を供し、肉の脂質性状に影響するとされる脂肪酸組成に関する遺伝性を評価し、
    脂質化学的な遺伝的改良の可能性を報告した。これは国内で最も早く報告された先駆的な成果といえる。
  3. 3 反芻家畜の妊娠着床機構に関する研究(早期妊娠診断法の開発と免疫寛容物質の探索)
    哺乳類の妊娠着床に伴う子宮内膜における特異的な妊娠関連因子の同定を共同で行い報告した。現在は受胎率向上を目指し免疫寛容因子を探索している。また反芻動物の早期妊娠診断法として血中アミノ酸濃度変化をモニターし、多変量解析法で判別する方法を考案した。
  4. 4 豚の腸管フローラ制御による免疫能賦活化に関する研究
    豚の慢性疾患を予防し生産性を高める目的で、機能性乳酸菌を探索・開発し、産肉性や免疫能への効果と腸内フローラとの関係性を検討した結果、腸管免疫能を賦活化して抗病性を高め、肉質と共に産肉性を高めることを報告した。これらは、国際的に使用禁止されている抗菌剤の代替物開発に貢献する。

上記の研究成果は、牛や豚の健康を保ち、良肉質の生産効率を高めることに貢献することが期待される。


氏 名 河原 聡
所属機関・職名 宮崎大学 農学部 応用生物科学科 教授
業績の課題名 食肉脂質の食品栄養学的再評価に関する研究

業績の概要(受賞理由)

食肉や食肉製品の食味性は、共存する脂肪の量に依存して向上する。一方で飽和脂肪酸に富む動物性脂肪の過剰摂取は肥満や脂質異常症の原因となるため、摂取量を抑制することが推奨されている。食肉の食味性と健康上のリスクとのバランスに関する知見を得ることは、食生活の質を高める上で重要である。そこで河原氏は牛肉脂肪(牛脂)の健康リスクについての再評価ならびに動物性脂肪の含量と食味性についての評価を行った。
牛脂および植物油を12~22%添加した飼料を28日間ラットに摂食させた。22%牛脂を摂食したラットの血清脂肪濃度は、同レベルの植物油を摂取したラットより有意に高くなるが、牛脂の飼料添加量が12%の場合、血清脂質濃度は植物油と同程度の値であることを認めた。また牛脂を摂取したラットの肝臓脂質濃度および多価不飽和脂肪酸の組成は植物油摂取ラットのそれより低くなり、牛脂摂取ラット肝臓の脂肪酸化度は植物油摂取ラットのそれよりも低くなることを明らかにした。
一方、牛脂を添加した食肉製品(牛肉パテ)の食味性について検討し、牛脂添加量が10%から20%のときに最も食味性を呈し、その食味性は植物油を同レベル添加したものより優れていること、そして最も食味性を高める脂肪酸成分はパルミチン酸であることを明らかにした。また、ソーセージの場合には、牛脂や豚脂を10%添加したものの食味性が最も高いことを示し、食肉製品については10%から15%程度の脂肪量で十分に食味性を引き出せると結論した。
また、反芻動物に由来する肉や乳に含有される機能性脂肪酸に関する研究を行った。抗発がん作用をもつことで注目されている共役リノール酸(CLA)に着目し、牛脂は効率の良いCLA補給源であり、食餌から吸収されたCLAは中性脂質画分に優先的に蓄積されること、CLAの摂取により筋肉組織中の不飽和脂肪酸含量が低下し、組織の脂質酸化が抑制されることなどを明らかにした。さらに糖尿病の予防効果に対する期待から近年注目されているフィタン酸が免疫系に及ぼす影響を検討し、ヒト血中に見出される濃度域においてフィタン酸が免疫系細胞の活性を抑制する可能性を見いだした。