伊藤記念財団賞Award

概要と最新の受賞者

食肉に関する学術上の研究に優れた業績が認められ、将来の活躍が期待される研究者に伊藤記念財団賞を授与します。
本年度は8月1日~10月31日まで、第7回伊藤記念財団賞の受賞者について募集を行い、選考委員会において選考を行い、理事会において受賞者を決定します。
受賞者には賞状及び研究奨励金200万円を授与します。
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第6回伊藤記念財団賞受賞者

被推薦者及び所属機関等 推薦の対象となる業績の課題名
安部 亜津子 (日本畜産学会推薦)
島根県畜産技術センター
肉用牛科長
黒毛和種牛肥育経営の収益性向上を目指した短期肥育技術ならびに和牛肉の特性評価に関する研究
岩崎 智仁 (日本食肉研究会推薦)
酪農学園大学 農食環境学群
食と健康学類 教授
食肉加工への超高圧利用、新規顕微鏡による食肉の顕微解析ならびに鶏の異常硬化胸肉に関する研究

第6回伊藤記念財団賞受賞者 業績概要

氏 名 安部 亜津子
所属機関・職名 島根県畜産技術センター 肉用牛科長
業績の課題名 黒毛和種牛肥育経営の収益性向上を目指した短期肥育技術ならびに和牛肉の特性評価に関する研究

業績の概要(授賞理由)

黒毛和種肥育牛の生産費は肥育素牛価格の高騰や飼料価格の高止まりによって年々上昇し、収益性の確保が喫緊の課題となっている。そのために、生産コストの低減と生産された牛肉の市場価値を高めることが必要である。そこで短期肥育によるコスト低減と、和牛肉の特徴の客観評価について研究を行い、以下の成果を得た。
1 黒毛和種牛の短期肥育技術の開発
(1)黒毛和種去勢牛の短期肥育における飼料給与技術
短期肥育は飼料費等の生産コストの低減に有効な手段の一つであるが、慣行肥育(29か月齢)と同等の枝肉重量と肉質を安定的に確保する技術が求められている。24か月齢出荷の短期肥育体系において、肥育前期(8~13か月齢)にバイパスタンパク質飼料を補給することで、増体量が向上し、慣行肥育と同等の枝肉成績が得られることを明らかにした。さらに飼料給与方法として、短期肥育牛に対する発酵混合飼料(TMR)の給与効果を検討し、租飼料と濃厚飼料を分離給与する従来法で問題となっている、濃厚飼料多給に起因する消化器等の疾病が低減され、濃厚飼料摂取量を高く維持できることを証明した。これらの肥育試験成績をもとに行った経営試算により、短期肥育は飼料費低減と牛舎回転率向上によって1頭あたり約5万円の収益向上効果があることを示した。
(2)短期肥育における国産飼料の活用
飼料用米、飼料イネ科の国産飼料の利用拡大は、飼料の安定確保、安全安心な牛肉生産から重要な課題である。飼料用米(破砕籾米)の配合割合が異なる肥育牛用発酵TMRの消化試験を行い、飼料の摂取量と消化・利用性の観点から、適正配合割合は乾物中14%であることを明らかにした。また、輸入乾草を飼料イネで全量代替した発酵TMRを全期間給与する肥育試験の結果、慣行と比べて肉質を大きく低下させることなく枝肉重量を確保できることを示した。
2 和牛肉の市場評価向上における官能評価技術の活用
和牛肉の市場評価向上を目指し、給与飼料の検討と牛肉の特性評価を実施してきた。特に脂肪酸組成について、嗜好型パネルによる官能評価により、脂肪含量を考慮した消費者嗜好への影響調査を行い、脂肪酸組成の違いにより脂肪含量の高低の方が大きく影響することを明らかにし、脂肪含量を考慮した評価の重要性を示した。また味覚センサー測定値の官能評価による検証を行い、項目によっては味覚センサー強度とヒトの官能特性とは必ずしも一致せず、官能特性評価における官能評価の必要性を示した。


氏 名 岩崎 智仁
所属機関・職名 酪農学園大学 農食環境学群 食と健康学類 教授
業績の課題名 食肉加工への超高圧利用、新規顕微鏡による食肉の顕微解析ならびに鶏の異常硬化胸肉に関する研究

業績の概要(授賞理由)

食肉を対象とした研究領域は食資源としての家畜の骨格筋特性からその加工特性等の理解までと広範囲に及ぶ。これまでにはいくつかの新規手技手法の食肉加工への展開と食肉科学分野での応用に関する研究を行ってきた。その内容は主に(1)食肉加工への超高圧処理の利用、(2)原子間力顕微鏡の食肉科学への応用(3)肉用鶏の異常硬化胸肉の性状と発現機序に関する研究に分類される。
(1) 食肉加工への超高圧処理の利用
「超高圧処理を利用した新規加工食肉製品の開発」を目的とし、筋原繊維タンパク質、特にミオシンならびにそのフィラメントの圧力変性について分光学的、電子顕微鏡学的手法等にて詳細に検討した。さらに肉パティを適切な圧力強度で処理した後に加熱することで、低温濃度においても良好なテクスチャーを持つエマルジョン型の肉製品製造の可能性を見出した。
(2) 原子間力顕微鏡の食肉科学への応用
走査プローブ顕微鏡の一種である原子間力顕微鏡を用いた食肉科学分野でのナノレオロジー解析において実績を挙げた。主たる業績として、溶液中の加熱あるいは加圧変性したミオシンフィラメント線維の微細構造観察と局所物性(ナノレオロジー)解析を実施し、それら弾性率の温度ならびに圧力依存性がゲル(バルク)の弾性率変化と一致している事を見出した。さらに食肉の熟成過程における筋原線維構造のナノ弾性計測に成功し、食肉の軟化機構における脆弱部位を明確に示してその理解の一助とした。
(3) 肉用鶏の異常硬化胸肉の性状と発現機序に関する研究
2013年ごろから世界的に肉用鶏の胸肉異常である異常硬化胸肉(wooden breast)が頻発している。この異常硬化胸肉の組織化学的特徴と発現鶏の臨床的所見から、飼育の比較的初期にその兆候が現れることを明らかにした。また、異常硬化胸肉を発現する鶏では筋ミトコンドリアに異常があり、その異常の程度が発現の有無に関係していることを明らかにした。さらに、異常硬化胸肉の死後熟成による生化学的組織学的変化についても明確にし、その利用の可能性についても調査を進めた。